山法師 〜”ダメ”という意識の先にある夏の日〜

2015.8.21

『朱色をした月ことだけは 念え(かんがえ)てはいけない。』


そう云われたその時からあなたはきっと
頭の中に朱い月のことを思い浮かべる。

人間の意識とはそういうモノ。

たとえ意味がわからなくても
”禁じ”という制御のなかでは
狙うべきではない的を意図せず打ち抜いてしまうことは珍しく無く、

”駄目”という魅惑に惹きつけられるこの本能は
人間が文明を開花する前から備わっている大きな矛盾エネルギーで、
知性も教養も手に入れた紳士淑女だとしても
否めない脳内戦争である。


沈黙は最強の攻撃であり、
退避することと「とりあえず」忘却することも
そろそろ習得すべき歳(時期)なんじゃないかと
ルートヴィッヒにお叱りを受ける日も遠くないだろう。


勿体ないくらいさわやかな朝の庭に出て飲むコーヒーの種類ひとつとっても
偏りがちな選び方のあたしは
二日酔いが過ぎてガンガンする頭を持て余しつつ、
今日もいつもと変わらずアルペジオでラテにしてしまって
ライトなものばかりキッチンの白い棚の入り口のほうに残留しているようだった。


新しいマグカップを自分のために調達しようかなぁ..


見慣れすぎたそのカップを手に取ると、
目の前をいつもの可愛い猫(こ)が
いつも通りなんてことない表情を浮かべ通り過ぎていく。

どうしてまぁこんなにも忠実に
キチンといつも通りの物語が繰り広げられているのか?


このごろ自分を彩る(つくる)パッケージと含有成分はほんの少し、
だけど大幅にリニューアルしたようで
この免疫創りは例えるならやっつけ仕事でしかないのだ。

そしてそんなことは本当どうでもいいように、
その猫(こ)は一度も眼を合わさず庭の奥へと消えていく。
その素っ気無い感じに安心し、
やっぱりアルペジオのラテを飲み干して
丸いダイニングテーブルの上からメッセージを光らせているiPhoneを手にした。

「今日例の彼と会うんだけどね..」

ゆうべ”禁じ”ていた無法地帯に手引きしてくれたYからのLINEは
まさに恋愛関係初期のさぐりさぐりの第一関門突破を目指し
不安と疑問のあいだで可愛らしく映っていた。

さっきまで一緒にいたのにまた会いたくなってしまうその感じは
こころの中の恋人のようなもので、女特有のそれである。

家の近所でも立ち入ることを無意識に避けていたそのゾーンは
踏切の音が響く昭和感と疲労感の入り混じった
女人禁制を思わせる新橋の裏路地あたりの空気を纏った店が肩を並べている。
通りには雑多に並べられたテーブルと椅子が無造作に置いてあり、
ガラガラと古い木の扉を引くと18時だっていうのに中は満席で、
皆、宝くじでも当ててやったかの様な顔つきで
無邪気に嘲笑しているようにすら見えた。

その中の多くは意外にも恋仲同士が多く、
ラグジュアリーホテルよりモーテルって響きを蠱惑的に感じる様に
むき出しの欲のままそこに寄り添って呑んでいる。

ふたりを繋ぐのはもちろん「酒」で、
そこには遠慮とか言い訳とか無しに
自分をさらけ出すことを赦されているに違いない。

勝手な思惑のままに私たちは
五十種類以上もある酒の中からテレパシーを感じる順に頂いたのだが
ある理由から立ち入ることを”禁じ”ていたそのゾーンで、
お猪口を片手に持ったわたしはYに
またひとつ今までの自分を裏切る発見が出来てしまった。

駒の進め方が上手なYの恋悩みは
不器用にマイペースなわたしとは真逆なところにあったけれど、
間違いなくそっくりな造りであろう部分である
お酒と つまみと 何処かB型っぽい思い癖は
何一つ変わっっていないと気が付いた。


「凸」と「凹」は全く真逆のふたりだけど

下の部分はそっくり。



だから合致する。



”禁じ”ている部分って実は
合致しちゃうって識って(わかって)いるから執拗に認識し、優雅に魅了され、

何かを予感するのかもしれない。




その晩の”禁じテレパシー”は
入手困難で日本一辛口と云われる
夏真っ盛りのパンチが効いた日本酒に出逢わせてくれた上に、
水と 涙と 口説き言葉っていうものは勝手に溢れ出てしまうものなんだと
店内の恋仲たちは謂ったような気がしたのだ。



わたしたちの夏は

まだ終わらない。





●魚~ずまん●
神奈川県川崎市高津区溝口2-6-9
044-814-1180


=山法師=
純米爆雷辛口(山形)

bijin30

TOKYO

代表取締役 / 株式会社 5TOKYO

野口万紀子 [ No.0030 ]

好きな日本酒の銘柄:ロ万・鍋島・手取川・北光・達磨正宗

<株式会社 5TOKYO 代表取締役 / クリエイティブディレクター / コラムニスト>

【取得資格】
SSI認定 唎酒師
WSET LEVEL1 AWARD IN SAKE
SSI認定 日本酒ナビゲーター
日本野菜ソムリエ協会認定 パーティースタイリスト

【プロフィール】
東京都目黒区生まれ。女子美術短期大学卒業。モデル、芸能活動後、外資系アパレルブランド、融資コンサル会社等での経験を経て、ライター業に転身。その後、株式会社 5TOKYOを設立。『日本酒 × ファッション・アート・音楽』をテーマに、日本の伝統とトレンドを「5感」で繋げる日本文化の楽しみ方を提案。ソーシャルメディア「SAKE美人」「HANA美人」キュレーター。和酒フェス公認 和酒アンバサダー。

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